大森映子著「お家相続 大名家の苦闘」角川選書 1,400円
中小企業の事業承継が難しい時代になって来ましたが、この著書を読むと、江戸時代の大名家の「お家相続」の苦闘が良くわかります。
いわゆるお世継ぎがいないと、お家断絶の処分が幕府から申し渡されるので、各藩はお世継ぎをどのように確保するかに大変な思いをする様子が良く描かれています。
江戸時代は子供が早死する(岡山藩二代目藩主には40人以上の実子がいたが、10歳を超えたのは12名だけ。夭折は、上流階級の婦女子が使っていた化粧品の成分に水銀があったためと言われている)ので、お世継ぎを得ることは現在の常識では計れないようです。
しかも、相続には17歳という年齢制限があり、藩主が亡くなるとお世継ぎが藩主になるわけですが、藩主になったお世継ぎが17歳になるまでは養子縁組が認められないという規則があったため、そのお世継ぎである藩主が15歳で亡くなった場合、藩はお取りつぶしになってしまいます。
そのため、お世継ぎの決定は慎重を要し、世継ぎのいない藩主の死亡日を後にずらし、急きょ他の大名家の者を養子縁組し、急場をしのぐのは普通に行われていたようである。
中には、備中鴨方池田家のように幕府に隠したまま、幕府に届け出をしている病弱な兄(基次郎)に替えて(その時、兄は14歳)、弟を兄にすり替えて基次郎にしてしまった例もあるそうで、史実に基づいた記述だけに各藩の緊迫度が伝わってくる本でした。
担当:冨山 恭道
九段下の会計事務所
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